大事にしていたお茶碗が割れちゃったと落ち込んでいる人がいたよ。亡くなったお母さんが大切にしていた思い出の品という。「とても気に入っていたのに……」。とため息をついているので、またひっつけてみたらどうじゃろうと言ってみた。
えっ、ひっつけるって?」欠けたり割れたり、ひびが入ったお茶碗やお皿を漆でくっつけて、つなぎ目を金で塗って修復する方法があるんじゃよ。「ぜひ!」その人と一緒に、金継ぎの先生の所へ向かった。
「ああ、このお茶碗は、きっと面白い模様ができると思いますよ。せっかくだから、ご自分でやってみませんか」という先生から、金継ぎを教わることになったんじゃ。割れをつないで、欠けを埋めて、磨いて、つなぎ目に漆と金粉をぬって乾かして……。いくつかの工程を経て、金の継ぎはぎのお茶碗が出来上がった。
「洗っても大丈夫。またお茶碗として使えますよ」。「わあ、うれしい」。その人は涙目になっていたよ。
金継ぎの歴史は古く、蒔絵などの漆を用いる工芸と茶の湯の文化とともに、室町時代から始まった
と言われている。器の継ぎ目模様も景色としてとらえて、ひとつひとつの違いをながめて楽しむ茶の湯の心。こわれたものを手をかけて修理し、継ぎ目があるからこその味わいを、この世でただ一つのものとして愛でる。それは、「もったいない」の心とつながっているよ。愛があるからね。
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